子供がいない夫婦は遺言を
ご主人が亡くなって奥様が相続の相談にお見えになりました。
奥様のお困りごとは、「年金事務所が遠いから、年金の手続きだけお願いしたい。主人名義の自宅と預金は私がもらえばいいから自分でできるから大丈夫…」とのことでした。
「ちょっと待って下さい、ご主人の財産を相続することができる人(相続人)は奥様だけではありません!」
ご夫婦にはお子様がいらっしゃらず、ご主人の両親、兄弟の全員はすでに亡くなっています。
子供がいない場合で親もすでに他界している場合の相続人は配偶者と兄弟(兄弟がすでに亡くなっている場合は甥姪)です。
奥様のお話だと、兄弟は全員亡くなっているが、その子供である甥姪はいらっしゃるとのことでした。
自宅と預金を奥様がもらうためには相続人である甥姪に承諾してもらわなければなりません。又、甥姪には全員で1/4の相続する権利があるので、その権利を主張される可能性もあります。
奥様としては、子供がいないから単純に全て自分がもらえばいいと思っていました。
「自宅にずっと2人で住んできて、主人名義の預金は2人で貯めたもの。なぜ関係ない甥姪の承諾が必要で、1/4の財産をあげなくちゃいけないのか?」と、なんとも納得いかない様子です。
さらに問題は、甥姪とほとんど付き合いがなく、連絡先もわからない状況で、どうやって承諾をもらうのか?とのこと。
まずは甥姪と連絡をとるため戸籍や住民票を取得していく必要があります。しかし、住所がわかっても実際に住んでいるかもわかりませんし、又、住所がわかっても1人1人と連絡を取り承諾を得なければなりませんので相当な時間と手間がかかることが予想されます。
戸籍等を取得して調査したところ、甥姪が合計で10人いることがわかりました。
この全員と連絡をとり、ご主人の財産を誰がどうやって相続するか全員が合意した遺産分割協議を成立させなければなりません。
そして、全員が合意した「遺産分割協議書」に署名捺印がなければ、自宅の名義変更も、預金の解約もできません。
奥様の年齢は90歳で、自力で相続人全員の承諾を取り付けることなどとても無理です。自分でできなければ遺産分割交渉の代理を専門家である弁護士に依頼するしかありません。
もし、ご主人が生前に、「自分が死んだら全財産は妻に渡す」という遺言書を作成していれば、甥姪の承諾などなくても自宅や預金を奥様名義することができました。
遺言書があれば遺言書が最優先となりますので、遺産分割協議は必要ありません。又、甥姪が相続人の場合は遺留分(遺言があっても最低限もらえる権利のこと)がありませんので、遺言書通り全財産を妻が取得することができます。
お子様がいないご夫婦の場合で両親もすでに他界されている場合は、配偶者と兄弟(亡くなっている場合は甥姪)が相続人になります。疎遠になってしまった兄弟(甥姪)がいる場合には、複雑な手続きを避けるため、又、自分が亡き後も残された妻が安心して自宅に住み続けることができるようにするためにも、お互いに「自分が死んだら配偶者に全ての財産を渡す」という遺言書を作成しておくこと良いと思います。
遺言書は公証人が作成した「公正証書遺言」が確実ですのでお勧めいたします。